こんにちは!枚方の司法書士 尾花健介です。
もちろん枚方だけでなく、寝屋川市、香里園、樟葉、守口市、門真市、四条畷市、東大阪市など、枚方を中心とした関西全域に対応している司法書士として活動しております。
「人間としての尊厳を備えたまま、最後の時を迎えたい。」
「何も動くことも喋ることもできず、全身チューブに繋がれ、ベットに拘束されたまま生かされるのは嫌だ。」
「過剰な医療など受けず、最後は自然に死にたい。」
このような考えをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、尊厳死の定義、安楽死や自殺ほう助との違いについて、また、尊厳死と日本の法律の現状、その上で、尊厳死を選択するにはどうすれば良いか?
尊厳死を選択したい方が準備しておくべきことなどについて説明していきます。
1.尊厳死とは
尊厳死とは、自分の意思で終末期の延命措置を行わず、人としての尊厳を保った状態で自然な死を迎えることをいいます。
やせ細った身体にたくさんの管を繋がれた病床患者さんの光景を見て、「自分はこんな状態になってまで生きていたいと望むのだろうか?」などと、思わず考えてしまったことがあるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
手塚治虫先生の描いた漫画“火の鳥 生命編”では、死ぬことを恐れたある高齢者が、脳以外の全身を生命維持装置に変えてしまい、ずっとベットに横たわっているという、現代医療に対する強い皮肉を込めた描写が残されています。
事実、現代の医療技術なら、回復の見込みがないにもかかわらず、人工呼吸器や胃ろう、栄養剤の点滴などの生命維持装置につなぐことで生命を維持することが可能です。
そして実際に、日本の多くの医療現場で、末期がんや高齢により衰弱した状態で治癒の見込みがない患者に対して過剰ともいえる延命措置が行われています。
当然、本人が延命治療を受けて一日でも長く生きたいと希望する場合は、本人の希望通りの医療を受けるべきでしょう。
しかし、その反面で、延命治療は患者本人にとっても肉体的・精神的な苦痛が非常に大きいのも事実です。
また、それを見守るご家族(現役世代)の精神的負担や金銭的な負担の大きさについても、考慮が必要な場合があります。
過剰な延命措置を断り、緩和ケアを受けることで、自分らしさを保ったまま最期の時を迎える尊厳死は、本人の尊厳のみならず残された家族を守るための最後選択肢となるかもしれません。
2.安楽死や自殺ほう助との違い
この点、一番最初に整理しておきたいのが、尊厳死と安楽死の違いです。
尊厳死と混同されがちな言葉には、安楽死と、さらに自殺ほう助(刑法:第202条)があります。
※刑法:第202条 人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、6月以上7年以下の懲役又は禁錮に処する。
尊厳死を考える上で、安楽死や自殺ほう助とは、どのように違うのでしょうか?
(1)安楽死との違い
先ずは安楽死について整理しましょう。
安楽死とは、治癒の見込みのない病人を本人の希望に従って、苦痛の少ない方法で人為的に死に至らせることをいいます。
尊厳死との最も大きな違いは、薬物投与などにより人為的な方法で死に至らせるという点にあるでしょう。
尊厳死の場合は、延命措置を行わないだけであり、積極的な死へのアプローチを行うわけではありません。
ただ、海外などでは、安楽死には上記のような積極的安楽死以外に消極的安楽死と呼ばれる方法もあります。(むしろ、尊厳死と安楽死として違いを見出すは、日本国内での考え方の特徴といえます。)
そのため、意味合いとしての消極的安楽死については、延命治措置を実施しないで、自然死に近づけるという点で、ほぼ尊厳死と意味を共通ととらえることができます。
(2)自殺ほう助(刑法:第202条)との違い
自殺ほう助とは、自殺しようとしている人を手助けすることをいいます。
外形上、非常に安楽死と自殺ほう助は似ていますが…、
この点、自殺ほう助と安楽死の大きな違いは、本人の意思能力の有無にあるとされます。
先ず、安楽死の場合は、医師などの第三者が主体となり、本人の死に関与していきます。
一方、自殺ほう助のケースでは、本人が主体(指示・依頼・嘱託による)となり、第三者が主体者の命を絶つ手助け(ほう助)をすることになります。
また、自殺ほう助の場合、安楽死と異なり、その結果である死へ至る手段について、苦痛が少なくない手段(倫理性)であるものであったか、原則として医師の手によるほう助であることが望ましいが、医師の介在に拠ることができないだけの説明に足る、特別の事情があったか否か等。様々な要件が問題として伴ってきます。(※山内事件:名古屋高裁1962年12月22日・成吉善事件:東京地裁1950年4月14日)
安楽死については、一部の海外の国や地域(例:オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、カナダ、オーストラリアのビクトリア州 2022年:現在)では合法とされています。
しかし、現在の日本では、安楽死も自殺ほう助も刑法第202条(同意・嘱託殺人罪)に抵触し、違法(犯罪)となります。
3.尊厳死と日本の法律
現在の日本において、安楽死や自殺ほう助は違法となりますが、尊厳死については法律上どのような扱いになるのでしょうか。
(1)現状は合法化されていない
現在の日本には、尊厳死について明確に規定した法律は存在しません。
終末期医療における治療の変更や継続の判断は、本人が意識を喪失しているなど意思表示ができないケースが少なくないため、本人の家族と担当医との話し合いによって決められることがほとんどです。
しかも、家族内での意見の違いが出てくることも想定すると、必然、その判断は非常に難しいものとなっていきます。
過去には、※1終末期癌患者に延命措置を行わなかったことによる事例や、※2脳死状態で回復の見込みはない患者の人工呼吸器の取り外しに関与した医師が殺人容疑で書類送検された事例もありました。
(※1 富山県射水市民病院事件:2006(平成18)年3月⇒書類送検後、担当医不起訴。)
(※2 羽幌病院事件:2004(平成16年)年2月⇒ 同じく書類送検後、担当医不起訴。)
その為、こうした事件をきっかけに2007年には厚生労働省によって、「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」(最新:2019年改訂)が策定されることに繋がり、現在では、「本人とその家族、複数の医師の同意の元であれば延命措置の中止は許容される」という考え方が医療現場では広がりつつあります。
しかし、法制化されたわけではないため、厳密な意味での尊厳死は、未だに法律上グレーゾーンであるのが現状です。
参考:終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン(厚生労働省公式サイト)
(2)日本における尊厳死法案について
少子超高齢化社会を迎える現代の日本において、、最早、尊厳死は無視できない重要なテーマとなっています。
国会でも、超党派議員による「尊厳死法制化を考える議員連盟」により、「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案」を提出がなされる等、法制化を進める動きが進んでいます。
参照:連盟議員リスト
しかし、当然のことながら、、医療のみならず社会全体、ひいては文化に及ぼす影響も大きい重大な問題でもあり…、様々な理由から反対意見も多く、また尊厳死の定義づけの難しさもあり、2022年現在、法令化には至ってはいません。
4.尊厳死を選択したい場合はどうすれば良いか?
しかし、上記までの説明のとおり、現代日本において、尊厳死は法整備までは、されてはいないのですが、一定の条件が揃えば可能な場合もあります。
もしも、自分が終末期を迎えた時に、尊厳死を選択したいと考える場合はは、どうすれば良いのでしょうか。
(1)遺言書では叶わない
尊厳死を実現するために遺言書を残すことを考えたことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。(参照:生き方の最後は自分で決める。尊厳死宣言公正証書とは?作成方法・費用・相談先について。)
しかし、そもそも遺言書は遺言者の死後に効力を持つものなので、生前の希望について記述しても、法的な効力を生じません。
また、遺言書に記述できることは決まっており、終末医療についての希望を記述することはできないことが想定されます。(参照:遺言書で決めれる内容、法定遺言事項とは?)
(2)エンディングノートには法的効力がない
では、遺言書がだめならば、エンディングノートではどうでしょうか?
エンディングノートの記述内容には遺言書のようなルール、書式の指定や、上記のような内容が指定されるような規定等はありません。(※遺言書は効力を与える為に法律で規定されている要件があります。)
その為に、個人の意向として、自分の終末期医療や介護のついて希望を記述することも可能です。
遺言書でフォローしきれない範囲の物事を、あらかじめ、エンディングノートに明記しておくことで、後々、家族や介護担当者がそれ見て、判断の役に立つ場合もあるでしょう。
ただし、エンディングノートには、遺言書と違って、法的な効力が無いという点が問題です。
仮に、エンディングノートに尊厳死を希望する内容の記述があったとしても…、
家族が「できる限りの医療を受けさせたい」と望んだ場合や、意見が分かれた場合などは、尊厳死が叶わない可能性が非常に高いです。
また、家族が遠方に住んでいる場合等は、エンディングノートを作成していても、それを見てもらう機会がないまま、忘れ去られているなどの事態もあります。
恐らく、エンディングノートに記載するだけで尊厳死を実現するのは、現実面から難しいものと考えられます。
(3)生前の意思表明リビングウィル(尊厳死宣言公正証書)
尊厳死を選択したい場合の手段として、リビングウィル(尊厳死宣言公正証書)があります。
リビングウィルとは、生前の意思を意味する言葉で、終末期を迎えた時の医療の選択について事前に意思表示しておく文書のことをいいます。
海外の事例でも、事前指示書や生前遺言書と呼ばれることもあります。
そもそも、尊厳死の認定の一番問題になる部分が何かというと、終末期における本人の意識がないなど意思確認が難しい点にあります。
だからこそ…、
意思能力があるうちに、自分が人生の終末期を迎える際の思いや医療の希望などをリビングウィル(尊厳死宣言公正証書)という形できちんと文書化しておくことが重要なってきます。
この点、エンディングノートと同じように、リビングウィルには、決まった書き方やフォーマットは存在しないので、普通の紙に自分の言葉で記しても良いと言われています。
その為、むしろ、どのように書けば良いか分からない場合が多いかと思われますので、ここでは、日本尊厳死協会から書式をダウンロードすることも可能であることをご紹介いたします。
参照:日本尊厳死協会のサイト
各個人様によって、書く内容はご状況によって、細部について様々違ってくるのは当然の事なのですが、主に以下のような内容を記載することになります。
- 延命措置の拒否
- 苦痛を抑えるための緩和医療の希望
- 意識を喪失した以降の代理人連絡先
また、リビングウィルのフォーマットについては、独自に作成している病院や自治体もあります。
参照:厚生労働省-人生会議-
リビングウィルが完成したら、家族やかかりつけ医にコピーを渡し、原本は保険証などと一緒に見つけやすい場所に保管するようにしましょう。
近年では、リビングウィルを提示した際、医師が尊厳死を許容する確率は約95%といわれています。(※それでも法制度化まではされていない以上、確定的な法的拘束力があるという訳ではありません。)
さらに確実性を高めたい場合は、リビングウィルを公正証書で作成する尊厳死宣言公正証書をお勧めいたします。
このように、公証人が第三者として意思を確認し、より公平な公文書化とすることで、明確な意思表示として認定されやすくなることが期待できるからです。
5.リビングウィル(尊厳死宣言公正証書)を選択したい方がしておくべきこと
最後に、リビングウィル(尊厳死宣言公正証書)を選択したい方が、並行して、共に準備を進めておくべきことについて説明します。
(1)家族と話し合いを持つ
終末医療や介護について、常日頃から家族と話し合いを持っておくようにしましょう。終末期には本人の意識がないことも多く、家族の判断が大きく影響するからです。
終末期介護に於ける労働的負担や、医療にかかる費用負担の規模等についても共有しておくべきです。
また、仮にリビングウィル(尊厳死宣言公正証書)を残しておくにしても、終末期にどのような医療を行うかについては、家族間でも意見が分かれることが珍しくありません。
その為に、自分の考えを事前に家族に伝えて意思の共有をしておくことが大切です。
リビングウィル(尊厳死宣言公正証書)を作成している事実(あるいは作成したいという意向)も、家族に分断を生まない為にも、早めに告知しておいたほうが良いでしょう。
(2)早いうちに対策を行う
当サイトをご覧の方のなかにも、リビングウィル(尊厳死宣言公正証書)に興味はあるが、「まだ若いから対策は先でいいだろう」、と考えている方もいらっしゃるとは思います。
しかし、人がいつどうなるかについては、誰にも予測できません。
極端な話、私自身とて、明日になれば交通事故に遭い、脳死状態になるということも起こりえます。
尊厳死を望むのであれば、特段、年齢については関係なく、なるべく早期に対策を行うことをおすすめします。
まとめ
今回のページでは、尊厳死の定義から、安楽死と自殺ほう助等との違い、尊厳死に関する日本の法律整備状況、尊厳死(リビングウィル・尊厳死宣言公正証書)を選択する場合にはどうすれば良いか? その他の準備しておくべきこと等についてまとめました。
人生の終わりはいつどのようにして訪れるかわかりません。
最後まで自分らしく生きたいのであれば、その終末について考えておくこともまた有益なのではないでしょうか。
このページをご覧の貴殿が…、
『苦痛を長引かせるだけの延命措置を断り、自然な最後迎えたい。』
『不毛な医療費(国家予算)の垂れ流しで、次世代を支える若者や子供達を苦しめたくない。』
『自分の年金や保険金目当ての家族や開業医の利益の為に、薬漬けの胃瘻処理までされて、無理矢理生かされ続けるなんて嫌だ。』
と考える方であれば、早めにリビングウィルや尊厳死宣言公正証書を作成する等の対策を行っておくことをおすすめします。
このように、相続・遺言を解決する当事務所では、様々な状況に合わせて、相続手続きや申立書類作成について、サポートさせていただきます。
今回の記事のような事例でお困りでしたら、なるべく早期にご相談ください。
一括して手続きをサポートさせていただきます。
なお、相続や遺言のことをもっと詳しく知りたいという方は、下記の“総まとめページ”の用意もありますので、是非ご参考になさって下さい。